プロダクト開発部の千田です。
先日、新しいプロジェクトの立ち上げにあたり、チームビルディングのワークショップとしてインセプションデッキを作成しました。
インセプションデッキはプロジェクト立ち上げ時に使われることが多く、10個の質問に答えるだけでプロジェクトのWHYやHOWを明確にします。プロジェクトの目的、方向性、優先順位など、重要な要素についてチーム内での共通理解を目指して作成します。詳しくは書籍『アジャイルサムライ』で紹介されています。
以下の画像はインセプションデッキ作成後のMiroのボードです。
本記事では、私たちがどのようにしてインセプションデッキを作成したのかを紹介します。
インセプションデッキ作成の動機
開発要件がある程度固まっていたものの、私たちが何を成し遂げるために集まっているのか、どこに焦点を当てて価値を届けるべきかについての理解が不十分でした。そのため、プロジェクトに対する各自の期待を共有し、認識を一致させることが必要でした。
事前準備
最初に実施するワークを選びました。プロジェクトの要件はまだ完全には整理できておらず、機能的にも技術的にもまだやらない範囲を話す前段階だったため、『やらないことリスト』のような技術や機能の具体的な話につながるワークは選ばず、代わりに以下の5つのワークを選びました。
- 我われはなぜここにいるのか
- エレベーターピッチ
- ご近所さんを探せ
- トレードオフスライダー
- 夜も眠れなくなる問題は何だろう
限られた時間の中でなるべく集中して終わらせるため、『エレベーターピッチ』以外は事前に宿題として付箋に意見を出しあいました。
実施方法
実施時間は3時間と定めて1時間のうち50分をワークの実施、残りの10分を休憩としました。また、インセプションデッキに詳しくないメンバーもいたので、各ワークの目的を明確に伝えることを心掛け、理解のずれが生じないよう注意しました。
各ワークの詳細
以下に各ワークの進行方法と結果を簡単にご紹介します。
我われはなぜここにいるのか
『我われはなぜここにいるのか』は、プロジェクトが何を解決したいのか、その目的を確認します。
以下の手順で進めました。
- 各自付箋を読む
- 質問や疑問があれば聞く
- 似たような意見の付箋をグルーピングする
- 自分が書いた付箋を一つ選んで考えを共有する
本来は『我われはなぜここにいるのかの文章を作成する』までを手順のゴールとする予定でした。しかし、各自の考えをグルーピングして共有したところ、既にチーム全体の意見が一致していることが明らかになりました。
後のワークに時間を残すため、文章作成はスキップしました。この時点で全員の方向性が一致していることがわかり、ワークにも勢いが生まれました。
エレベーターピッチ
『エレベーターピッチ』は、プロジェクトの目標を短時間で伝えるための手法です。書籍『アジャイルサムライ』で紹介されているテンプレートを少しアレンジして、課題・ユーザー・価値提供の4つの項目に分け、これらについて議論しました。
当初は「〜に気づかないこと」が課題なのではないかという仮説で話し始めたのですが、議論しているうちに「〜に気づくのが遅れること」が本質的な課題なのではないかという結論に至りました。これにより私たちのプロジェクトが解決したい課題、提供する価値、主なユーザーを明確に定義することができました。
ご近所さんを探せ
『ご近所さんを探せ』は、プロジェクトに関わるすべての関係者を特定し、彼らの役割と責任を明確にします。
RACIフレームワーク(業務の責任者や役割を明確にするためのツール)を参考に、プロジェクトに必要な関係者を列挙しました。Slackにアップロードしているメンバーの顔写真を用いて、関係者を一目で確認できるようにしました。
トレードオフスライダー
『トレードオフスライダー』は、プロジェクトの制約となる要素(コスト、時間、スコープ、品質など)を視覚化するためのワークで、これらの要素の相対的な優先順位を示すために使われます。事前に顔写真を置いてもらい、それを元にひとりずつ意見を共有しました。
このワークで良かった点はユーザーストーリーを作成するとき、議論が活発になる場面がありましたが、その際に『トレードオフスライダー』に戻り、スコープよりも期限を重視することを再確認できました。その結果、最初のリリースではその仕様を含めないことを決定し、スムーズに進行することができました。
ただし、改善点もありました。時間の節約のために事前に付箋に意見を出しましたが、全員が見えるボード上だったため意見出しの際に意見の偏りが出る可能性がありました。互いの意見が見えない状態で意見を出せば、トレードオフスライダーなどのワークでもっと異なる視点の意見が出たかもしれません。
夜も眠れなくなるような問題は何だろう
『夜も眠れなくなるような問題は何だろう』は、プロジェクトにおける潜在的な問題や障害を特定し、その対策を考えます。
以下の手順で進めました。
- 各自付箋に目を通す
- 質問や疑問があれば聞く
- 似たような意見の付箋をグルーピングする
- ひとつずつ付箋に挙げた内容について議論する
トピックを絞ると後々問題が起きたときに対処できない可能性が出るため、すべての付箋について時間が許す限り話しました。
このワークを通じてサービスの信頼性を高めるための議論が行われ、その結果が後のユーザーストーリーの作成やリスク回避に反映されるなど、観点の洗い出しに役立ちました。
最後に
このインセプションデッキの作成により、私たちはプロジェクトの方向性を明確にしチーム全体の認識を一致させることができました。プロジェクトでのコミュニケーションと、意思決定に対する重要な指標となるためお勧めです。
初めてインセプションデッキに参加メンバーからは、「ワークをやっていくにつれ、チームに一体感が生まれるのを実感した」と感想をもらいました。
この記事が他のチームのみなさんのプロジェクトにも有益となることを願っています。最後までお読みいただき、ありがとうございました。